『アメリカン・スプレンダー』55点(100点満点中)
原作の知名度不足が致命的か
アメリカの人気コミックの映画化作品。人気アメコミといっても、『X-MEN』や『スパイダーマン』『バットマン』といったヒーローものジャンルとは正反対の、ややマニアックなカルト的人気の原作を映画化したものだ。低予算映画ながら本国では思わぬヒットを飛ばし、いくつもの映画賞を受賞した。
主人公は、妻に愛想をつかされ逃げられたさえない中年男。仕事は病院の書類係で、何の面白味もない平凡な日々を送っているダメオヤジだ。そんな彼があるとき一念発起、さえない風貌の自分自身を主人公に、日常の出来事や不満をコミックの脚本に書きなぐる。アングラコミック作家の友人に絵をつけてもらって出版したその『アメリカン・スプレンダー』は、思わぬ人気を呼び、彼の人生をちょびっとだけ上向かせるかに見えたが……。
ダメ中年の波乱万丈人生を笑わせながら、「誰の人生にも輝く幸せがあるものだ」といったテーマを浮きあがらせる個性的なドラマ。アングラコミック風のアクの強い絵柄がアニメで動き出す演出が楽しい。
今回は、一年に一冊出版されている原作コミックをまとめて映画化。なんと原作者本人が映画に登場し、半生を語るというドキュメント風味の構成で見せる。途中にはテレビ出演当時の本物映像も挿入されるが、演じる俳優があまりに本人の雰囲気そっくりのため、全く違和感がない。恐るべき役作りである。
主人公の人生は、良く考えてみるとかなり常識外れのものであるが、彼は人間味の塊のような男なので、妙に自分たちとの共通点や共感できる部分が多い。
いまどきは、ネット日記で自分の私生活を公開している人は珍しくないが、それをそのまんま映画にしたような作品だ。原作者であり主人公でもあるハービー・ピーカー氏は、自らの結婚やガン闘病記までコミックのネタにしている。
前半は興味が持続したが、散漫とした展開に徐々に飽きがくる。上映時間は100分程度と長くはないが、体感時間は長い映画だ。日本では原作の知名度がゼロに近いというのも不利だ。原作コミックを知らないものが、積極的に劇場に出向いていくほどの魅力があるかというと、非常に微妙である。