『世界の中心で、愛をさけぶ』40点(100点満点中)
この映画で何をやりたいのか、はっきりさせよ
出版業界久々のド級のベストセラーとなった原作を、センチメンタルな映像美で知られる監督が映画化。
レビューを書くにあたり私も原作を一読してみたが、どうもマスコミその他で騒がれているほど、「泣ける」という話ではないようだ。大して気を引くエピソードがあるわけでもなく、構成がよいわけでもない。高校生同士の恋愛における心理について、一部に鋭い描写を見ることができるが、正直な感想としては、小説としてはイマイチであった。そういう感性の男による映画レビューだと、まずは断っておこう。
さて、その映画版だが、感動的な主題歌を持つ予告編の出来がいいため、早くも大きな期待をされている。だが、結果としては小説と同じく、イマイチといったところだ。
まず、製作側が何をやりたいのかが伝わってこない。観客を泣かせたいのか、それとも本気で青春映画を作りたいのか、あるいは主演女優の長澤を売り出したいのか。もちろん、そのすべてをやりたいのだとは思うが、明確に一本機軸を通してほしいという気持ちに変わりはない。
特徴の薄い原作を、漫然と映画化するとこうなってしまう。もっと映画でやりたいことを明確にして、それに特化して作るべきだった。
それでも宣伝戦略を見る限りでは、最大の企画意図は観客のお涙頂戴映画を作るという一点にあると想像されるが、もしそうだとしても映画版『世界の中心で、愛をさけぶ』は不器用だ。
とはいえ、あの原作で涙を流せるという人ならこれでも泣けるのかもしれないのだが。そういえば横に座っていた若い某美人編集者は、終始すすり泣いていた。つまり、人によっては感動で泣けるということだ。
無論、「原作には「泣ける」以外の魅力もある」という声もあるだろう。ファンの間では自分の10代の頃を思い出させるリアルな心理描写を絶賛する人も多い。だが、映画版では主人公カップル二人の関係について、”完全なプラトニック”の方向へ設定変更しており、これが結果的に現実性を大幅にそいでいるとのマイナス効果を生んでいる。
2時間14分という上映時間も、この内容にしては長いしくどい。劇伴音楽もうるさい。ロケ地などは「よくぞこんな良い場所を見つけた」と思うほど綺麗だし、映像もメルヘンチックでこの監督らしいものはある。ヒロインを演じる長澤まさみ(プロポーション抜群)も、相変わらずスクリーンに映えるすばらしい女優だ。しかし、それらの魅力をもってしても映画自体がイマイチである印象はぬぐいきれない。
結局、原作を愛してやまない人が、どうしても見たいというケースを除いては、あまり積極的にすすめにくいというのが私の結論である。