『MAY/メイ』70点(100点満点中)
ホラー史上もっとも悲しく、魅力的なヒロイン
「ホラー映画史上、もっとも悲しいヒロイン」とのふれこみで宣伝されている作品。並み居る話題作に埋もれさせるにはもったいない作品だが、どこの媒体でもノーマーク、宣伝がまったく浸透していないため、しょうがないから私がここでプッシュしようと思う。
ヒロインのメイは、強い斜視治療のため、巨大な黒い眼帯をして少女時代を過ごさざるを得なかった過去を持つ若い女性だ。現在は小さな町の獣医のもとで助手の仕事をしているが、今だに一度も“友達”を持ったことがない気の毒な女性である。
メイは、その風貌から常にいじめられて育ったようだが、そんな娘を不憫に思った母が、「これを友達だと思ってね」と手作り人形をプレゼントする。……が、これがまたえらく奇妙な人形で、暗い色の布を使ったパッチワークによる、薄気味悪いことこの上ない一品である。
そんな不気味なものをもらったら(母親、アンタの感覚は大丈夫か?)、普通は即ごみ箱行きだが、メイは純粋な心を持つ優しい女の子なので、その人形に毎日話し掛けて孤独をまぎらわす。そんな少女時代を過ごしたものだから、彼女はちょっとだけ精神が歪んだまま成長してしまった。
メイは、登場したときから「ちょっとヘンな女の子だなぁ」「友達になりたいタイプじゃないかも……」と誰もが思う雰囲気をかもし出しているが、元の顔自体がとても綺麗(要するに美人ということだ)なので、思わず感情移入してしまう。後半部分にとんでもない猟奇的な展開を巻き起こすこのヒロインをどこまで愛せるかが、この作品を楽しめるかどうかのポイントといえよう。
終盤、ホラーめいた展開になるまでは、メイの平和な、それでいてちょっと普通と違った日常が描かれる。彼女の生活圏は、職場となる診療所やコインランドリーなどとても狭い。その小さな世界のなかに登場する人々に対してメイが抱く愛情は、痛ましいほどに純粋だ。そして、彼女の「愛されよう」とする努力がことごとく空回りする姿を見ていると、観客はとても切なくなってくる。
はたしてメイは、「誰かから愛されたい」という小さな願いをどうやってかなえようとするのか。その選択と行動は、常軌を逸した残酷この上ないものだが、観客が抱く感情は「悲しみ」に他ならない。メイが、見つけた“友達”に最後に与えるものを観客が知ったとき、そのピュアな気持ちに感動すら覚えることだろう。これはホラーというジャンルの中では相当な異色作と言ってよい。これほど(見た目が)残酷な映画を見て、こんなに清清しい感動を得られるとは、実に意外であった。
この映画が、これだけ心に残る理由は、やはりヒロインのメイを演じた女優の演技力につきる。「キモいと感じさせないギリギリの変人ぶり」と「観客に愛されるだけの魅力」を絶妙なバランスをもって表現した彼女の実力には恐れ入る。また、メイは洋服作りが特技で、自分が着る服はすべて自分の手で作っているが、このデザインがどれも素晴らしいので、ぜひ注目してほしい。
残酷描写が苦手な人には少々きついかもしれないが、『MAY/メイ』は隠れた名作として、なかなかのオススメだ。すでに汚れてしまった私たち(私だけか?)が失った“ピュアな気持ち”を、愛すべきメイに教えてもらいに行こうではないか。