『ロスト・イン・トランスレーション』60点(100点満点中)
日本という異文化の中で感じる孤独
日本を舞台にした恋愛コメディで、アカデミー脚本賞を受賞した作品。日本のスタッフを多数参加させ、日本を愛する(?)監督さんが大好きな街、東京を舞台に作り上げた。
物語の核は、異文化の中で孤独を感じていた男女が、一生忘れられない出会いをするというもの。舞台となる東京は、欧米の人々から見れば、同じ先進国の中でもっとも”ヘン”な人々(=日本人)が住む街。この物語の重要な要素である“そこにいるだけで孤独を感じるほどの異文化”にはピッタリだ。さらに、ミステリアスなまでに美しく撮られた夜の東京の街は、一風変わった恋の物語の舞台としての説得力がある。『ロスト・イン・トランスレーション』が日本を舞台に選んだのは大正解だと私は感じる。
ところでこの映画、英語圏の観客が見た場合、コメディとしてかなりウケていると聞く。日本人の習慣や外見が意図的に“ヘンなもの”としてやや強調して描かれているので、似たような経験のある観客の笑いを誘うというわけだ。
こうした演出は笑いを取ると同時に、異国で一人ぼっちの主人公らの孤独感、疎外感を強く観客に感じてもらうためなのであるが、それでも当の日本人が見たら、気分を害する人が続出することは間違いない。実際は、アメリカ人に対しても風刺した側面があるのだが、それは、ある程度映画を深読みできる人でなければ感じることは難しい。
(海外での上映時は英語字幕がつかなかった)日本語部分を理解できる私たちは、また違った楽しみ方ができる……という人もいるが、私はそう簡単にすすめられる映画ではないと思う。少なくとも監督が意図した“笑い”の部分については、私はまったく笑えなかった。これは英語圏の人々にとってはコメディだが、日本人にとってはまるっきり違う作品なのだ。
物語の核となるラブストーリーの素晴らしさは十分に理解できる。だが、日本人としての部分が拒否する、そんな映画だ。