『ディボース・ショウ』60点(100点満点中)

おしゃれな会話劇を目指しても、他人の財産を奪い合う姿はスタイリッシュからは程遠い

金持ち男を騙しまくって計画離婚し、巨額の慰謝料を奪い取る悪女と、離婚訴訟専門の腕利き弁護士が騙し合う恋愛コメディ。二人はやがて惹かれ合うものの、そこは恋愛沙汰を金にするプロ同士、一筋縄では行かない壮絶な駆け引きが繰り広げられる。

「頭の切れる男女のスマートな会話の応酬を見ると、フッと鼻で笑いつつ楽しくなってしまう」という方に向いている映画だ。とはいえこの手の会話劇は、ある程度の英語力がないと十分に楽しめるとは言いがたいのも事実。字幕では所詮、「わかった気になる」程度で終わってしまいがちだ。

人気スター二人が競演するが、二人とも「いつもの彼ら」そのもので、観客が思い描く俳優イメージ通りの演技を見せている。つまり彼らを好きな人にはいいが、たとえばジョージ・クルーニーのスカしたキャラが嫌いな人には向かないといえる。

終盤にはどんでん返しらしきものがあるが、単に脚本の都合上そうなったという印象で、説得力はあまりない。原因としては、相手役の女優の演技力と役作りが足りないという印象だ。悪女としての演技力はなかなかだが、逆にいえばそれだけだ。

この映画では、メインの題材としてプリナップ(婚前契約)というものが扱われている。これはたとえば、「離婚したら、一年あたり180万ドルの慰謝料を支払うこと」といった事を、結婚前に決めておくというアメリカの制度のこと。これを悪用して金持ちの財産を奪い取るのが、主人公の悪女の手口なのである。

これ、もともとは、金持ちが庶民と結婚して離婚した際に、財産を必要以上に失わないために作られた制度だという。訴訟大国であり、離婚慰謝料が際限なく高額化したアメリカならではの話だが、今では「浮気したらそのたびに1000万ドル支払う」などという、わけのわからないプリナップを結ぶケースもあるそうだ。愛についての保証をほしがる野暮ったさ。それに気づかぬ人々のなんと愚かなことよ。『ディボース・ショウ』でも、そのへんをもっと痛烈に皮肉ってくれればよかったのだが。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.