『スパニッシュ・アパートメント』70点(100点満点中)

すばらしい音楽とともに送る青春の一幕

就職時期を目前にしながら、進むべき道がいまだに見えていない主人公の青年が、ひょんな事から留学する事になったスペインで、人生の真の目的を見つけるまでの青春ドラマ。

人妻との恋愛や、国籍も人種も違うルームメイトたちとのエピソードを豊富にちりばめ、意外で感動的なラストまで一気に見せる。ときにおかしく、ときにせつない物語。主人公のように進路に悩む若い人が見ても、若いころ進路に悩んだ大人が見ても、もしくは現在行き詰まっている大人が見ても、きっと何か心に響くものがあるに違いないと思わせる佳作。

日本ではあまりなじみがないが、主人公が何人ものルームメイトと共同生活を送るアパートが、タイトルの由来になっている。その不思議な暮らしぶりは、生活者の目線でリアルに、かつ魅力的に描かれており、ルームシェアや留学の経験者などは共感を覚えるはずだ。もちろん、そうでない観客にとってもその魅力は存分に伝わってくる。

ダラダラと日常を描いて終わりではなく、はっきりとした結末に向けてしっかりと構成されたドラマだから、比較的見やすい。彼女くらいしか客を呼べる俳優が出ていないので宣伝されているオドレイ・トトゥ(『アメリ』主演)は、実はほんの脇役に過ぎないが、スペインの異国感、魅力的なヒロインたち、そして何より素晴らしい音楽によって、『スパニッシュ・アパートメント』は心に残る青春映画となっている。

ちなみに私は、この映画のサントラ盤がたいそう気に入ってしまい、もう100回は聞いている。映画を見て気に入ったら、ぜひお試しを。



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