『エレファント』55点(100点満点中)
特徴的な演出技法と美しい映像が心に残る
コロンバイン高校銃乱射事件直前の一日の少年たちの様子を描いた青春映画。カンヌ国際映画祭のパルムドール(最優秀賞)と監督賞を受賞したというだけあって、じつに丁寧に作られたことがわかる優れた映画作品だ。
多数の登場人物(少年少女)たちはみな素人で、役名はイコール本名でもある。セリフはほとんどが即興という、特殊な演出方法で作られている。カメラワークも、時間軸が重なる構成も凝っている。静かに静かに進行する日常の物語の中で、観客ははっとするような美しいカットをいくつも見つける事ができるだろう。
かように特殊な映画だから、明確なストーリーなどがあるわけでなく、観客へ訴えかけたい明確な主題があるわけでもない。同じ事件を扱った『ボウリング・フォー・コロンバイン』とはまったく違った形で、事件を理解しようと試みた作品といえる。ただ淡々と少年たちの姿を背後から映し出し、その理解と解釈は観客にゆだねている。決して解答を提示しようとはしていない。
よって、何がしかの結末がなければ映画を見た気がしないというような方や、メリハリのある物語を楽しみたいという方にはまったく『エレファント』は不適格な映画だ。終了後に「だから何なんだよ」とつぶやいておしまい、となるのがオチだから、素直にほかの作品を見たほうがいい。
逆に、上記のレビューを読んで興味が沸いた方や、この作品の監督(ガス・ヴァン・サント)の真摯な作風が好きという方は、背筋を正してこの良質な作品を楽しんでくるとよいだろう。