『マスター・アンド・コマンダー』75点(100点満点中)

男たちの熱いドラマが見所の海洋スペクタクル

世界的なベストセラーが原作の海洋冒険歴史大作。帆船時代の海戦や船内生活を、ディテールにこだわった本格的な映像で見せてくれる。

ストーリーは、圧倒的に有利な装備を持つ敵アケロン号を拿捕する任務を預かったサプライズ号クルーが、常勝不敗のカリスマ艦長のもと、一致団結して戦うという展開。荒くれたベテランクルーに混じって士官候補生の10代前半の少年たちも乗り込むが、海の上では大人と同じ仕事を堂々とこなす。彼らは、見た目の幼さとは裏腹に、腹の据わった一人前の軍人だ。

ほとんどがこの帆船内で繰り広げられるドラマであり、そこに女性の登場人物は一人も出てこない。今どきは珍しい、男たちの骨太なドラマだ。厚い信頼と友情が、そこには描かれている。

オスカー常連のラッセル・クロウが演じる艦長と、個性派ポール・ベタニー演じる船医二人のキャラクターが魅力たっぷりに描かれており、このドラマの核となっている。二人の存在感と演技力には文句のつけようがない。

日本では地味な印象を持つ本作だが、実は今年のアカデミー賞には10部門もノミネートされている。これは11部門の『ロード・オブ・ザリング 王の帰還』に唯一匹敵するほど高い評価を得ているという意味だ。実際映画としての出来は見事なもので、原作を未読の私が見ても、十分に楽しめるものとなっている。原作ファンが見ても、これだけ面白い映画を作ってもらえれば満足なのではないか。

どこに使っているのかわからないほど自然に仕上がった特殊効果は、スペクタクル映像の土台をきっちり支え、出来のよいサウンドがさらに盛り上げる。もともと、人間の目と耳で索敵する帆船同士の戦いというのは緊迫感があり、映画向きの素材だ。指揮官の力量が結果を大きく左右する時代の海戦を、『マスター・アンド・コマンダー』ではたっぷりと堪能できる。

「子供が戦争に参加している」というと、まるで悲劇性の高い反戦主張のドラマかと勘違いしがちだが、これはそういうお涙頂戴の映画ではない。あくまで、年齢など関係ない男同士の絆を描いたドラマと、美しい帆船同士のド迫力戦闘シーン、映画史上初めてというガラパゴスでのロケーションシーン、主演二人の魅力的なキャラクターといったものを楽しむつもりで見たほうがよい。

海にあこがれる少年たちやオジサンたち、もしくは上記のような世界を理解してくれる女性たちに、私は『マスター・アンド・コマンダー』を強くすすめたい。逆にいえば、恋愛要素を求めているような観客層には向かないので、ご注意のほどを。



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