『オアシス』90点(100点満点中)

インパクト強烈、美しい恋愛映画

マスコミ用試写室が連日騒然としたという、韓国製恋愛映画。たしかに、この映画の衝撃は半端ではない。

韓国だからできたのか、この監督だからできたのか、それはわからない。だが、一つだけはっきりといえるのは、この映画は決してハリウッドや日本では作れなかっただろうということだ。

もしあなたがスクリーンから強烈なインパクトを受けるという体験をしたいのなら、今週は『オアシス』を見るべきだ。この映画はほとんど映画界の突然変異のようなもので、今後も似たような作品が現れるとは、私には思えない。

この映画は障害者と健常者の恋愛を描いたドラマである。だが、日本で一時流行したようなメロドラマとはまったくコンセプトが違う。『オアシス』に出てくる障害者のヒロインは、なんと脳性麻痺である。口がきけないとか目が見えないとか、そういうレベルの障害者ではない。脳性麻痺というのは、手足が硬直し、顔は大きくゆがみ、言葉を発することや日常生活を一人で送ることが非常に困難な、重度の障害である。そんな女性がこの稀有なる恋愛物語の主人公なのだ。

そして、その相手となる健常者の男。こちらも普通ではない。彼は出所直後の前科者。しかもその罪状は強姦ときた。

この二人の恋愛は、通常の流れとはまったく異なる形で進行する。詳しくは実際に見てもらうとして、その映像表現と心理描写には非凡なものをいくつも感じ取ることができる。

一つだけ書くと、映画の前半で障害者の彼女が、天井に反射する光を見るシーンがある。ここではCGが使われ、あるものが表現されるが、この場面の映像的な美しさは筆舌に尽くしがたい。後々語り継がれるであろう、名場面だ。

監督の才気も誉めるべきだが、何よりすばらしいのは主演女優のムン・ソリ。障害者を演じる俳優というのは、特別に気合を入れて役作りをするため、下手なケースというのはまずないが、それにしても彼女の演技は凄い。鬼気迫るとはまさにこのこと。

なにしろ手足や背骨を不自然に硬直させ続けるため、一度に10分程度しか連続して演じられなかったという。シーンの撮影が終わるとすぐにスタッフがリハビリのマッサージをしたが、それでもクランクアップのあと、背骨バランスはゆがんでしまい、理学的な治療を受けねばならなかったという。聞くも涙の話であるが、その結果、これほどの傑作をわれわれは見ることができるのだ。なんとありがたいことか。

彼女のみならず、貧乏ゆすりや鼻すすりなどのチック症状を延々と最後まで続ける、相手役(ソル・ギョング)の演技も見ごたえたっぷりだ。世の中から疎外された者同士の壮絶で美しい恋を、彼は完璧に表現した。

この映画では、一般にタブー視されるある事も描かれている。奇麗事やできすぎなお涙頂戴ドラマとは違う、実に骨太な演出だ。映画が始まった瞬間から、予想もできないラストシーンまで、我々観客の興味をつかんで離さない。

障害者を題材にした映画でこれ以上の作品は、恐らくもう、当分の間現れることはないだろう。世の中に強い問いかけをしたこの見事な作品を作った人々に、私は心より拍手を送りたい。

テレビでは決して見ることのできない、これぞまさしく映画。長年連れ添った夫婦や、まじめに語り合える気のおけない友人たち、心を許し合える大切な人と一緒に、ぜひ鑑賞してほしい。『オアシス』は、今週どころか、本年度を代表するであろうオススメ作品だ。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.