『ラブ・アクチュアリー』50点(100点満点中)

映画も恋愛もタイミングが大事なのに、それを外している

『ノッティングヒルの恋人』『ブリジットジョーンズの日記』を製作したスタジオが満を持して送る、ロマンティックコメディの集大成。男女合わせて9カップル、総勢19名という膨大な登場人物が、クリスマスの夜にチュッチュする恋愛群像劇である。

……とはいっても、普通のカップルが何組も出てくれば観客も飽きるので、同性愛あり、不倫あり、長年の片思いあり、小学生の初恋あり、そして親子愛ありと、同じ「愛」にもたくさんのバリエーションを持たせて楽しませてくれる。

出演者も豪華だが、中でもロマコメの帝王ことヒュー・グラントは、いよいよ今回英国首相という、これ以上ないゴージャスな役柄を演じることになった。とはいえそこはヒュー・グラント氏であるから、首相の癖に手近な田舎娘の秘書嬢にひと目ぼれ。身分違いもいいところな恋愛をしてしまう。

彼らの物語をはじめ、何しろ9本分のロマコメをごった煮にしているわけであるから、見ているほうも大変。いくらなんでも人数が多すぎやしないか。時間も堂々2時間15分。ロマコメが歴史大作並の上映時間とは驚いたものである。

さすがにこれだけのドラマが同時進行すると、退屈はしない。終盤には、怒涛の告白ラッシュが待っているので、涙腺の弱い方はおいおい泣く事になろう。なるほど、ひとつのドラマで人(ロマコメに飽き気味の現代の観客なら特に)を感動させるのは難しいが、畳み掛けるように数で勝負すれば泣かせられるというわけか。

これら数々のドラマの最後を飾るのは、当然われらがロマコメの帝王。スローモーション使用のこってりした演出で、見事にラストシーンを飾る姿はさすがの風格である。

『ラブ・アクチュアリー』は、「世の中には愛があふれてるわ!」というお気楽なメッセージを少なくとも2時間15分は信じていられる純粋な感性を持っている方ならば、大いに薦められる。

こうしたちょいと気恥ずかしい映画は、クリスマスの夜に見てこそ受け入れられるというものだが、今はバレンタインの季節。配給会社は、「クリスマスシーズンに公開できないなら、せめて同じ位ロマンティックな季節の今」と思ったのだろうが、それは残念ながら間違いだ。

日本におけるバレンタインデーは、恋の勝ち組と負け組が明確になる残酷な日にほかならない。クリスマス用にチューニングされたこのようなしあわせ映画にとっては、少々タイミングが悪かったか。



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