『半落ち』40点(100点満点中)

またひとつ良い原作が台無しに

直木賞の候補にもなった、2002年日本ミステリ界最大の話題作の映画化。妻殺しを自首した男が、なぜか殺害後〜自首までの2日間については決して語らない(警察用語でいう”半落ち”状態)、その謎で引っ張る物語である。

容易に想像がつくとおり、主人公は”誰か”をかばっているわけで、その真相が明らかになるラストで、ドーンと泣かせる事を最大のウリにしているのは映画も同じ。森山直太郎の感動的な主題歌がTV-CMでガンガン流れているから、大きく期待する向きも多かろう。だが映画『半落ち』は、期待するほどには泣きにくい。

多数の登場人物が出てくるが、映画のほうはとくに相関関係がわかりにくい。小説と違ってそれぞれの主要人物をじっくり描くひまはないから、有名俳優をあてがって、彼らの持つキャラクターに頼るという手法を取っているが、その分深みはなくなった。

客をガンガン引っ張るミステリとしてのパワーが映画版にはなく、ストーリーテリングのたどたどしさが目立つ。また、原作には警察や裁判所内のディテールを楽しむという要素があり、映画でももっとこだわってほしいところだったが、その点は割愛されたようだ。

それにしても、これだけ魅力的な登場人物と役者をそろえていながら、特段エキサイティングな展開を見せることなくラストを迎えるのは惜しい。これでは、原作を先に読んで、頭の中で補完して泣くほかない。



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