『味』30点(100点満点中)

淡々と2時間以上続くドキュメンタリー

中国料理の源流といわれる魯菜=山東料理の中でも、伝統的な技術を守りつづける世界で唯一人の日本人女性、佐藤孟江さん夫妻を追ったドキュメンタリー。

なぜ、この技術を持つ人がこの日本人女性であるかというと、中国では76年に文化大革命という大粛清が起こったせいで、伝統的魯菜の技術が失われてしまったからである。中国という国は、長い歴史を誇ると思われているが、実際はこのように何度も文化的断絶を経験しており、厳密な意味で数千年の継続といえるかどうかは微妙なところなのだ。

この佐藤さんは、適当な後継ぎがおらず、店の存続も危うい状況にある。というわけで、本家中国のある料理学校の校長らが、夫妻の店の今後について、いろいろと相談(という名の買収計画)に乗るわけである。だが、儲け重視のこのインチキ中国人と、「砂糖・ラード・化学調味料は一切使わない」という昔気質の夫妻の意見が折り合うわけが無い。このへんのトークバトルは、なかなかハラハラする。

ただ、これを過ぎるととたんに映画の行方が見えなくなり、こちらも退屈の虫に襲われる。しかも、そこからがまた長い。

この伝統的ローサイという食べ物は、たしかに旨いだろうし、失われかけている貴重な技術であろう。それはわかる。ただ私は、この人たちの店に行きたくなったかといえば、そうはならなかった。料理の映像が意外に少なく、魯菜の魅力があまり伝わってこなかった事と、このオジサンが厨房でスパスパタバコを吸っているのが気になったからである。店内も薄汚く、衛生面もどうかと思う。まあ、それはともかく、一流の料理人ともあろう人間がタバコは無いだろう。

映画自体は134分と長大だが、NHKの『アーカイブス』でやっているような、のんびりした昔のドキュメンタリーに耐えられる人ならついていけなくもないか。



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