『フォーン・ブース』90点(100点満点中)
年間ベストクラスの傑作サスペンス
映画一本が、電話ボックスの中だけで展開されるという、斬新なアイデアのシチュエーション・スリラー。映画の中と実際の時間の経過がシンクロするつくりになっている。
それにしてもすごい映画である。電話ボックスひとつで、立派に映画を成立させてしまった。『フォーンブース』は、制約だらけのちっぽけな舞台へ、これでもかというくらい、たくさんのアイデアをつめこんだ、一級のサスペンスだ。その切れ味鋭い着想と出来映えには、ある種の嫉妬を覚えるほど。
脚本家によると、メインアイデア自体は20年も前に浮かんだものだという。そして最近、突然プロットを思いつき、わずか1週間で脚本を書き上げたのだそうだ。なるほど、そう言うものだろうと思う。長年寝かせてきたアイデアと、ストーリーの材料となる数々の断片が、あるときを機会に一気に組みあがるというのは、実感できる話ではある。
映画が始まると、主人公の性格や社会的背景が、短時間で簡潔に説明される。そして物語はすぐに電話ボックスの悲劇に移ってゆく。そこから先は、一瞬も目が離せない。まったく気が抜けないほどの鋭い緊張感が、最後まで持続する。
どこからかライフルで狙い、「電話を切ったら撃っちゃうよ」などとのたまう犯人の目的はさっぱりわからず、主人公ともども観客は涙目になる。
何とか犯人から逃れ、電話ボックスから脱出しようと試みる数々の行動は、見ている観客がまさに、「そうだ、こうすればイケルかも!」と想像したその瞬間にピタリと劇中で提示される。お客さんの心の動きを計算尽くしたかのような、見事な脚本だ。
すれた観客の皆さんなら、この手の映画を見ながら、「あいつバカだなー。こうすりゃ助かるジャン。なんでやらないんだよ、ご都合主義くせー」などと思うものだが、『フォーン・ブース』に関しては心配無用だ。そうした方々が普段感じるストレスは、この作品に関してはほとんど無いといえる。
いったいなぜ犯人はこんな事をするのか、そして哀れな主人公氏の運命やいかに? クライマックスには、きっと皆さんの興奮も最高に盛り上がることだろう。
これぞ至福の81分間。これほどの出来映えのサスペンスは、一年に500本単位の映画を見る私のようなものにとっても、年に一度出会えるかどうかだ。たくさんのロケをしなくても、舞台が電話ボックスひとつでも、これほど面白い映画を作ることができるという事実に、ただただ感服である。
あらゆる年代の方に、あらゆる用途でおすすめできる、たぐいまれな傑作。これほどの作品を見逃したら、確実に悔いが残ると伝えておこう。