『東京ゴッドファーザーズ』80点(100点満点中)

非常にクォリティの高いアニメ、クリスマスにぴったりなおとぎ話だ

『パーフェクトブルー』『千年女優』と、良質なアニメーション作品を送り続けている今敏監督の最新作。クリスマスの夜、ホームレス3人組が捨て子を見つけ、その両親を必死に探す、笑いと感動の物語。

アニメーション自体の製作は、マッドハウスというプロダクションが行っている。ここは世界的にも評価の高いところで、『アニマトリックス』や『メトロポリス』といった作品を見れば、その技術力の高さがわかると言うものだろう。『東京ゴッドファーザーズ』も、全米配給を視野に入れて作ったというだけあって、ジブリ作品と肩を並べるほどクォリティの高い、すばらしいアニメーションとなっている。まさに、日本アニメここにあり、と言った感じである。

ストーリーは、「奇跡」をテーマにしたもので、下手をすると「あまりに都合が良すぎる」と冷めてしまいがちなものだ。だがしかし、「雪のクリスマスという舞台設定」「アニメーションという手法」が、それを許させる。最高にドラマチックなおとぎ話に、誰もがきっと温かい涙を流すことであろう。

主役のホームレス3人組のキャラクターが立っている。3人とも複雑な過去を持ち、東京の町でぎりぎり生きている状況だが、悲壮感は無く、生きるパワーを感じさせて気持ちがいい。ドラッグクイーンと、家出女子高生と、酔っ払いのオヤジという組み合わせも抜群のアイデアだ。演じる声優も、岡本綾をはじめ、専門外の人ばかりだが、実に上手い。

彼らが、捨て子の両親を探す旅は、そのまま3人が自分自身の生き方を探す旅にもなっている。ラストで彼らは、はたしてそれを見つけられるのか。

今敏監督は、現実の社会を舞台にしたこの手の話に、アニメーションならではの演出を取り入れるのが非常に上手い。本作でも、こちらを唸らせる見事な演出が随所にあるが、特にクライマックスのアクション活劇から、一気に感動的なラストにもって行く展開など、見事の一語に尽きる。

音楽についても文句なしだ。なかでも、ベートーベンの第9がかかるタイミングにはしびれた。

少なくとも、クリスマスの時期に見る映画として、これ以上のものはあるまい。そういう意味では、上映時期さえも、本作には有用に作用すると言うわけだ。これこそ、オトナが定価を払ってでも行く価値のあるアニメーションですぞ。



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