『キル・ビル』75点(100点満点中)

アクが強い上、少々狙い過ぎの感はあれど、さすがに力の入った出来映えだ

主に日本を舞台にしたアクション映画。熱狂的なファンを持つ、クエンティン・タランティーノ監督の6年ぶりの新作として期待されている作品だ。

こ の監督もだいぶ実績を作ったというわけか、今回の新作では、個人的な趣味性を前面に出して、相当好き放題をやっている。映画オタクとして知られる彼だが、『キル・ビル』には、彼の愛する過去の映画作品(カンフー映画やヤクザ映画、マカロニウェスタンその他)の要素が、ところどころに引用されている。仮にも現実の世界を描いていた今までの作品と違い、『キル・ビル』は、完全にタランティーノ世界観による、彼の脳内ワールドの映画化といえる。

ただし、彼がそのへんの映画オタクと一線を画しているのは、オタク以外の観客にも配慮した映画作りをしているという点である。ひらたくいえば、『キル・ビル』は、過去作品の引用など一切気にせずにみても充分に楽しめるのである。

監督の仕掛けに気づいたマニアな方は、そのたび劇場で一人だけ笑ってある種の優越感を楽しみ、そうで無い方は個性的なバトルシーンを気軽に楽しむというわけである。

『キル・ビル』のストーリーはシンプルそのもの。主人公ユマ・サーマン嬢が、宿敵ビルを殺すため、世界中を旅して追いかける話である。まさに“キル・ビル”、ストーリー紹介4文字で終わり。

途中には、かなり長いアニメパートも入り、観客の目を飽きさせない。演出も語り口も斬新だ。

主演女優はプロポーションが良く、ユエン・ウーピン指導(『マトリックス』シリーズ)によるワイヤーアクション、千葉真一指導による殺陣を、スタイリッシュにこなす。アクションシーンの楽しさは、かなり上等の部類に入ると言ってよい。

千葉真一、栗山千明(『バトルロワイアル』)ら、日本人キャストの出番も多い。とくに栗山は、かなりおいしい役どころで、本作を契機に一気に世界的なブレイクを果たす可能性がある。

なお『キル・ビル』は、日本を舞台にしているが、どうみても日本には見えないインチキくささで、登場人物たちがしゃべる日本語は、ビックリするほどの棒読みである。監督は、日本人向けのウケ狙いでやっている模様だが、役者のインタビューなどをみると、役者自身はマジメに演じているようなので、これはよけいに笑える。

最初に書いたように、これは、タランティーノの知名度や個性というものが、世界中に浸透した今だからこそ作れた作品だ。『キル・ビル』を1作目に出したなら、とても世に受け入れられなかったに違いない。という事は、多少なりともこの監督のセンスを知っていて、それが肌に合う人向けの作品という事でもある。その点さえクリアしている人なら大丈夫だ。

なお、『キル・ビル』は2部作であり、本作は前半にあたる。終わり方が絶妙であり、ラストはこれ以上のものは望めないといった印象だ。第2部が非常に楽しみである。



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