『アララトの聖母』50点(100点満点中)

歴史の暗部をわかりやすく描いている

アルメニア人の大殺戮という、歴史事実を描いたカナダ製の重厚なドラマ。いわゆる、虐殺の被害者側からのメッセージである。

この映画を作るにあたっては、題材が題材だけに、虐殺の加害者側であるトルコ政府からの圧力があったようで、製作中止を求めて裁判沙汰寸前までいったという。また、アメリカの配給元であるミラマックス社や監督本人にも、脅迫メールが殺到したそうだ。

なにしろ、まだトルコ政府は、公式に虐殺を認めていないのだから、反応も過敏になるというわけである。

監督は、大虐殺について、「トルコ政府には責任があると思うが、この事件に関して聞かされたこともないような、若い世代の個々のトルコ人に対してはそうは思わない」と語り、実際映画のなかでも、そうした世代間の認識のズレを印象的に描いている。最初はこの事を理解できない少年が、徐々に理解していく過程を、父子の和解のドラマにシンクロさせる事で、この手の映画にしては、比較的わかりやすい内容になっている。

残酷な虐殺シーンは、大量のエキストラを使って撮影されたが、実際に当時虐殺から生き残った老人などが、その中にはいたという。虐殺の悲惨さを、こうした直接的な表現のシーンと、画家ゴーキーの絵の手首部分を削るといった間接的、抽象的なシーンの両方で表現している。

本作を見逃すと、日本人がアルメニア人の大虐殺という歴史を知る機会はもうほとんど無いだろう。隠された歴史の1ページに興味のある方は、この機会に出かけてみるのもいいかもしれない。



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