『福耳』65点(100点満点中)

大衆が楽しめるベーシックな娯楽映画

脚本やバラエティ番組出演など、マルチに活躍する宮藤官九郎が主演のコメディ。

彼にとりつく幽霊を演じているのが田中国衛。この配役は上手い。この幽霊は、田中国衛という役者の持つイメージをそのまま生かしたキャラクターなので、すんなりとお客さんが感情移入できるのである。

この手のコメディは、やりすぎてドタバタ色が強まると、見ているほうが白けてしまうというパターンが多いのだが、『福耳』はその辺のバランスが良い。笑いも泣きも過剰さがなく、おさえ気味にしているのは美点である。

劇中で主人公が語る、フリーターの苦悩も、非常にリアルで説得力を感じた。本作は、映画で訴えたいテーマ、やりたいことがハッキリしており、見ていて気持ちが良い。

田中幽霊が彼に取り付いた理由あたりで、もっと驚かせてくれればなお良かったが、『福耳』は実にマジメにつくられた、大衆向きの娯楽映画でなかなかだ。ごく普通のエンタテイメントだが、この普通さが貴重だ。なにしろ、いつもどこかの国の映画は、大衆を楽しませるという、その普通さに欠けた作品ばかりなのだから。



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