『蛇イチゴ』70点(100点満点中)

安心して見る事ができる、傑作ホームドラマ

28才の新人監督、西川美和が、「雨上がり決死隊」の宮迫博之を主演に、ある家族の混乱と崩壊、そして再生への兆しを描くハートウォーミングドラマ。役者陣の見事な演技力と、超リアルな人物描写のおかげで、抜群に面白いドラマにしあがっている。

とくに、彼女の両親の前で結婚の報告をする夕食のシーン、ここは見所である。手塚とおるの本領発揮というべきキモチ悪さがすごい。これは他の役者じゃ真似できまい。

それにしてもこの場面、各登場人物の心理描写のディテールへのこだわりがすごい。独特のうすら寒い会話と気まずい雰囲気。こんなのは、体験者じゃなければ絶対描けないと思うのだが。これを28歳の女性監督が演出したかと思うと、恐るべき才能である。

『蛇イチゴ』は、肩肘はらずに見れる、気楽なエンタテイメントとしてオススメだ。とてもリアルな描写力をもったドラマで、それが笑いにつながっているし、最後には心温まる気持ちよいラストも待っている。唯一、音楽がイマイチ合っていないと感じるが、それ以外はバッチリだ。

『蛇イチゴ』は、大衆のニーズとずれた、ろくでもない映画ばかり公開している最近の邦画のなかで、ひさびさに満足を得られた日本映画だ。若き西川監督には、今後大きく期待したい。



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