『ハート・オブ・ザ・シー』50点(100点満点中)

宮村優子の声以外、なにも変わった事は起こらない日常を描く

日本で初めて、撮影から上映まで、全てデジタルで行うという、意欲的な映画。通常の映画は、フィルムにプリントして各映画館別に配るわけだが、これはそれぞれ、せいぜい数百回しか使用する機会が無く、資源面でも無駄が多く、環境によろしくない。また、上映コストを膨らませる原因ともなっているので、今後はフィルム不要のデジタル方式に、徐々に移ることになるのだろう。

上映、製作のコストが下がることで、金はないが才能はある若い製作者も、今までより世に出やすくなるわけで、我々観客にとっても一石二鳥というわけである。

『ハート・オブ・ザ・シー』は、そんなデジタル映画のさきがけとなるものだが、内容はゆったりとした時間のなかで、故郷の良さをほのぼのと描く。劇的な出来事は、1つも起こらない。日常を描いたドラマである。

唯一、地域FM局のDJ役の宮村優子の声だけが、日常からとっ外れているとは思うが、物語のいいアクセントになっているので問題はない。

登場人物は、田舎ならではの人情味に溢れている。そんな人々、何気ない日常の風景にこそ、本当に美しいものがあるという、監督のメッセージなのであろう。

クライマックスらしきものは、終盤の村おこしコンサート(?)での、杉山清隆本人による熱唱。だが、これにしたって映画的な演出など何も無く、地味なものである。『リビング・イン・ア・パラダイス』なんて曲は元々派手なのだから、その気になればいくらでもゴージャスに演出できるのだが、ここでは杉山氏が、ギター一本でしっとりと弾き語るだけだ。

下手をすると、退屈なだけのドラマなのだが、役者のみなさんの演技力が自然で、それなりに話がまとまっているのが救いであった。



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