『キリクと魔女』90点(100点満点中)

アフリカの魅力が詰まったエンターテイメントの傑作

本国のフランスではアニメーション映画史上、最高のヒットを記録したという、アフリカを舞台にしたアニメ。アフリカをよく知る監督が、アフリカを舞台に、アフリカの赤ちゃんを主人公に描く、教訓的な話である。

ズバリいうと、『キリクと魔女』は超1級のエンターテイメントである。こんなに面白くて、心に残るアニメーション作品は、久しぶりに見た。

アニメと言っても、ディズニーの優雅なフルアニメーションorCGアニメーションや、いわゆるジャパニメーションともまったく違う。わかりやすく言えば、動く絵芝居といった素朴な味わいである。絵柄も独特で、インパクトが強い。だが、それになれる頃には、このアフリカの雰囲気溢れる傑作に、多くの方がどっぷりとはまっている事だろう。

主人公のキリクは、映画史上最年少のヒーローでもある。何しろ、生後数時間なのだから。もちろん、服もきていないし、超能力も武器もない、ただの赤ちゃんである。だが、なぜか言葉はしゃべれるし、とても賢い。そして、脚だけは異様に速いのだ。

そんなわけで彼は、何も持っていないが、悪い魔女から村のみんなを守るため、必死に頑張る。この活躍ぶりがえらく痛快で、ユーモアに溢れており、見ていて気持ちがいい事この上ない。

ストーリーは感動的だが、アメリカ的勧善懲悪でもなく、日本的な物語とも違う、アフリカ的としかいいようのないもので、これも非常に新鮮だ。

音楽は、世界的アーチストのユッスー・ンドゥール。いつまでも脳内に残るリフレインが印象的ないい曲だ。

アニメで気になるのは声優だが、これも、日本語版の出来がすこぶる良いので、無理して字幕版を見る必要はない。『千と千尋の神隠し』の、ぼうちゃん(あの、でかい赤ん坊だ)役の声優が、主人公キリクを演じ、魔女役は女優の浅野温子が演じているが、まさにピッタリで、違和感がまったくない。まれにみる名キャスティングと言えるだろう。

『キリクと魔女』は、ざっと思い出してみても、マイナス点がほとんど考えられないという、めずらしい作品である。ただ、20代以上の大人が見たほうが、この味わいを理解できるだろう。あなたが、このガイドを読んで興味を持ったなら、ぜひ劇場に出かけてみて欲しい。決して後悔はしないはずだ。私自身、公開されたらもう一度出掛けてみたいと思っている。



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