『えびボクサー』90点(100点満点中)

落ちこんでいる人必見の、弱者に対する応援歌

巨大えびをボクサーに育て、一攫千金を狙う中年男の話。TVドラマの中で取りあげられるなど、話題のイギリス映画である。動物愛護の観点から、日本以外ではほとんど上映されないそうだ。

「えびボクサー」などと聞けば、「いったいそれはなんだ?」と、内容をまったく想像できないのが普通の感覚であろう。私も、鑑賞前はなるべく予備知識を入れずに見るタイプなので、これがいったいどんな映画なのか、さっぱりわからない状況で見た。

結果からいえば、『えびボクサー』は、『フル・モンティ』のような、弱者への応援歌であった。イギリス労働者階級の、さえない頑固オヤジが主人公で、妙に素直な気のいい若者と、H大好きな、浮気もののちょっと頭の弱いそのGFを引き連れ、巨大えびを使って、なんとか一旗あげようと奮闘する物語である。人間味溢れる、憎めない連中の姿には、自然に感情移入ができる。

彼らと旅を続ける巨大えびがまたいい。CGかなにかで表現するのかと思ったら、思いっきりハリボテで、最初に見たときはアホかと思ったものだ。だが、このえびを見つづけているうちに、やがてニセモノとは思えなくなってくるどころか、たまらなく愛しくなってくるのには、我ながら驚いた。主人公のオジサンも、同じくこのえびと友情が芽生え、そして、物語は意外な展開を迎えるのだ。

『えびボクサー』の登場人物たちは、平凡で、なにもとりえのない、普通の庶民たちだ。彼らの人生には、この出来事の後も、おそらく大きな変化は無いだろう。だが、彼らがえびと出会う前と後では、きっと何かが少し変化している。映画のラストで彼らが見せてくれるのは、そんなちょっとした”希望”である。最初には笑っていた観客が、最後には涙を流している、『えびボクサー』は、そんなタイプの映画である。男を泣かせる映画といってもいい。

ただ『えびボクサー』は、人によって大きく評価のわかれる映画と思われる。この映画の、社会的な弱者に対する優しい視点は、日本でも大きな支持を得られるものだと私は思うが、こうした一風変わったコメディを受け入れられる性格でないと、100%楽しむことはできないだろう。

それでも『えびボクサー』は、今年のベスト10を年末に選ぶとしたら、トップを争うであろうほど、個人的に気に入った作品である。すべての人に奨めるわけでは無いが、人生に疲れている人、試練に負けそうな人、諦めかけている人がいたら、ぜひ鑑賞して欲しい。きっと『巨大えび』から、大きな勇気と感動を分けてもらえるはずである。



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