『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』80点(100点満点中)

一級の娯楽サスペンスに大満足

製作にニコラス・ケイジが参加した、死刑制度問題を題材にした社会派サスペンス。……とはいっても、難しい話や堅苦しい雰囲気はまったくない。1級の娯楽作品として成立している、万人向けの今週のイチオシ映画である。131分の長い上映時間をまったく感じさせず、すべてのシーンが面白い。気合のはいった力作であり、私は強くオススメする。

哲学科の大学教授が書いたというこの脚本は、まさに2時間の映画のために書き下ろされたもの。だから、複雑で長大な小説をムリヤリ映画化したときのような無理がない。ストーリー展開に無駄が無く、見ていて飽きることがない。結末の衝撃も、凄いものがある。

主演の、冤罪を主張する死刑囚はケビン・スペーシーが演じる。『ユージュアル・サスペクツ』を見た方なら、きっと最初から警戒心を抱きながら彼の行動を見てしまうだろう。だが、それでも問題はない。そうした観客の心理まで、読みきったようなキャスティングである。じつに見事だ。

彼の冤罪を調査するジャーナリストは、ケイト・ウィンスレットが演じる。映画は、彼女が息を切らせて全力疾走するシーンから始まる。このランニングシーンに、私は別の意味で感動した。なにしろ、ウィンスレット嬢の走りときたら、タッタッタッタ、というより、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、という感じなのだ。まるで、地面のほうが負けてしまいそうな重量感である。

この複雑な真相を解き明かす役に、果たしてウィンスレット嬢が適確だったかという点は議論の余地がある。いや、それ以前に彼女が優秀なジャーナリストなどという、知的な役をやっていいものなのかという疑問は残るが、深く突っ込むのはよそう。本作の彼女の演技は(まあ、実のところ彼女はどんな映画でも)素晴らしい。

話題の結末は、意外性もアイデアも一級品で、高く評価したいポイントだ。正直な所、推理小説好きの私には、結構早い段階でネタが割れてしまったのだが、それでもこの映画がサスペンスとして優れていることは間違いない。死刑制度の矛盾を考える、いいきっかけにもなる映画だ。多くの人にこいつを奨めたいと私は思っている。



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