『ターミネーター:ニュー・フェイト』85点(100点満点中)
TERMINATOR: DARK FATE アメリカ 129分/ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:ティム・ミラー 出演:アーノルド・シュワルツェネッガー | リンダ・ハミルトン

≪出来はいいのに北米では不評≫

『ターミネーター:ニュー・フェイト』は28年ぶりにシリーズ生みの親、ジェームズ・キャメロンが製作(脚本や編集にも深くかかわる)として戻ってきた、『T2』こと『ターミネーター2』の純正なる続編である。

最新型ターミネーター“REV-9”(ガブリエル・ルナ)が突如メキシコシティに現れ、平凡な21歳の女性ダニー(ナタリア・レイエス)に襲い掛かった。弟ミゲルが立ち向かうが全く歯が立たず、絶体絶命の時、もう一体の超人的なパワーを持つ女性グレース(マッケンジー・デイヴィス)が助けに現れる。いったいなぜダニーは命を狙われるのか。そしてグレースはなぜ姉弟を助けようとするのだろうか。

『ターミネーター:ニュー・フェイト』は、ファンが待ち望んだ純正続編で、『3』だの『4』だの『ジェニシス』といったこれまでのターミネーターを、すべてパチもん化する意気込みで作られた本気の一本である。

かつて『3』の脚本を「つまらん、イラネ」とポイ捨てしたリンダ・ハミルトンも、キャメロン謹製の企画ということで戻ってきた。キャメロンの盟友であるアーノルド・シュワルツェネッガーも、身体を鍛えなおしてT-800に復帰した。監督はいま勢いに乗りまくっている『デッドプール』のティム・ミラーだ。まさに考えられる最高に近い布陣といえる。

しかしどうだろう。

ふたを開けてみれば米国での興収は期待外れ。あれだけ小ばかにした『ジェニシス』にさえ負けそうな勢いである。ネットでは酷評が吹き荒れ、おそらく関係者は衝撃を受けている。

それはそうだ。キャメロンが復帰した上、映画自体の出来も決して悪くない。当サイトがずっと指摘していることだが、なにより『T2』にあってその後の作品に足りなかった「熱さ」をこの作品は持っている。

いったいなぜこの傑作続編がコケるのか。彼らでなくてもさっぱりわからないだろうし、頭を抱えるのも無理はない。

まず映画の出来を見てみると、本作は新キャラを含めた登場人物がよく立っているのが美点として挙げられる。

とくに、カイル・リース的役回りの強化型人間グレースがいい。シュワと大差ない身長だからおそらく180pくらいはあるだろう。演じる女優が撮影前に軍事訓練までしたその動きは、この若き女性が、持ち前の美しさを犠牲にしてどれほどの鍛錬を積み、修羅場をくぐってきたかを見た目から表現できている。壮絶な終末世界からやってきた未来の兵士として、見るからに説得力がある。

全身にアダマンチウムのごとき金属を埋め込み、人間としての幸福と犠牲に、彼女はダニーを守りに未来からやってきた。その悲壮なる決意と使命感に私たちが感動できるのは、演じるマッケンジー・デイヴィスの見事な役作りによるものだ。

そしてシーン単位でいうと、このめっぽう強い、ターミネーターにも互角の戦いを挑むグレースがそれでも追い詰められ、いよいよ絶体絶命! という高速道路上の見せ場が素晴らしい。

ここはまさに『T2』の、T-1000の反対側にT-800が現れる廊下のあの絶望的場面に匹敵する、ものすごい熱いシーンである。まさに、いきなりクライマックス。心ふるえる、完璧なアクションシークエンスといってよい。ああ、キャメロンが返ってきたねと、長年のファンなら実感できるだろう。

さらにこの映画は、2019年のハリウッドムービーらしく、女性アゲで、反分断、多様性マンセーの流行もガッチリ取り入れている。このあたりは「超映画批評」の読者ならばすぐに気づくだろうし、それによって映画が言いたいことも深く理解できるだろう。

本作における男キャラというのは、T-800も含めて、いってしまえば脇役でありサポート的立場。運命を、物語を動かすのは常に3人の女性。このあたりはキャメロンの過去の映画とも共通する。キャメロン作品の女性重視は、わざわざ解説するほどのことではない、当たり前の話なので割愛する。

ところで本作の設定と物語については、現時点ではどう考えてもタイムパラドックス的に矛盾が生じるような気がする。とくにT-800関連についてだ。

もっとも、キャメロン版ターミネーターの重要なテーマである「機械でも人間と通じ合えるならば、私たちも変われるはずだ」をT-800の行動により本作でも繰り返しているからには、この続編以降でおそらく機械も含めて未来が「変わる」部分を描くつもりがあるのだろう。そこで矛盾も解消されていくのかもしれない。

だが、この一作目の興行的失敗によりその結末部分は見られなくなる可能性が強まった。

本作には中国資本テンセントが絡んでいるから、中国市場で回収できるようちゃんとウケる仕掛けがあるとは思うが、『ジェニシス』は世界興収が好調だったのに北米市場が不調というだけで、リスクが高いと判断され打ち切りとなった。それに倣えば、本作も続編はなくなる恐れが強い。

私は『ジェニシス』も本作も高く評価するが、このあたりの判断はビジネスなのでなかなか難しい。

ちなみに、本作がうるさいファンから文句を言われる理由もよくわかる。『ジェニシス』と同じ、ある人物の軽視である。キャメロンは女性キャラ大好きっ子なので、彼に対するファンの並々ならぬ思い入れを理解しきれていなかった可能性がある。

むろん、本作のテーマは新世代(時代)への引き継ぎであり、キリスト教的な赦しであり、過去からの脱却でありと、いろいろあるのでそのために必要な展開ではあるのだが、ファンというのはそういうこ難しいことなんてシラネ、アレとアレとアレを出して活躍させて痛快に終わらせろと、そういうことなのである。ターミネーターの最初の2本の何が良かったって、ソレがよかったのだ。そういうことだ。

……と、ネタバレにもなりかねないので慎重に書くしかなかったが、見ていただければきっとわかるだろう。映画の出来は決して悪くはない。日本市場が率先してこれから巻き返せば、続編もあるかもしれない。ターミネーターファンの最後の戦いが、今、始まったというわけだ。



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