『ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春』75点(100点満点中)
DEADHEADS 2012年4月14日(土)よりシアターN渋谷ほかにて公開 2011年/アメリカ/カラー/英語2.0chステレオ/日本語字幕/ビスタサイズ/95分 提供:日活 監督&脚本:ブレッド・ビアス ドルー・T・ビアス 撮影:ロバート・トス 出演:マイケル・マッキディ ロス・キダー マーカス・テイラー トーマス・ガラッソー

≪マイケル・ムーアも絶賛≫

マイケル・ムーアが絶賛したインディーズ系ホラーということで、なんとなく予想していたが、なるほど『ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春』は、現代の若者が抱える諸問題をうまく象徴したゾンビホラーであった。

世界にゾンビがはびこる時代。オタク青年マイク(マイケル・マッキディ)は、死んではいるがなぜかゾンビになりきれぬ半ゾンビとして目覚めた。人間時代の記憶も生活習慣もそのままな彼は、ポケットの中に恋人に渡し損ねた指輪を見つける。直後に出会った同じ半ゾンビのブレント(ロス・キッダー)、なぜかなついてきたゾンビの大男チーズ(マーカス・テイラー)と3人で、恋人に指輪を渡す旅に出るのだが……。

この映画の設定の特殊なところは、肉体的にはゾンビの主人公が、事実上は人間そのものという点にある。死肉も食わないし人間も襲わない。人を襲いたくてウズウズすることもない。死んではいるが、中身は完全に人間である。

だから、たとえばゾンビに襲われた時にも食糧(?)とはみなされず、殺害される心配はない。むしろ恐ろしいのは人間にゾンビと誤認(誤認というのも語弊があるか)されたときだが、そのときは人間のふりをしてペラペラしゃべれば、なんとか騙しとおすことも不可能ではない。

そんなユニークな方法で、人間ゾンビ双方から逃げ回りつつ旅を続ける。このあたりはコメディーとして描かれており、観客もノー天気に笑って楽しめる。

だが、いざ恋人に近づくにつれて観客と主人公は大きな問題に気づくのである。

ちなみにその恋人は人間。つまり、いかに主人公が人間の精神を持っていても、この二人の間には決して超えられない壁が存在するのだ。報われない愛とはよくいうが、生きてる女と死んでる男の関係ともなれば、これ以上的確な表現はないだろう。

これこそが本作のもっとも重大なテーマ。社会のヒエラルキー最下層の若者の苦悩、というわけである。

負け組などと称されるこうした最底辺若者を象徴する、オタクな上に半ゾンビな主人公マイクは、好きな女に会いに行くことすら許されない。決して超えられぬ階級差に苦しんでいる。いつの間にか観客たちは、人間ではなくゾンビに共感して応援するような仕組みになっているが、こうしたテーマに思いを寄せてほしいとの監督らのさりげない願いが感じられるかのようだ。

壁に必死に挑むも、超えられないものは超えられない。その絶望とそれでもあきらめられない愛を表現した着ぐるみごしの会話は、なかなか泣かせる名場面である。挫折しかけたとき、ろくでなしに見えた友人ゾンビが必死に励ますワゴン車のシーンもこれまた泣かせる。自分たちがダメなのはわかっている、だが、前に進む以外にどうしろというのか。必死に生きているものだけが伝えることのできるメッセージを、ここで感じ取ることができる。

キャラクターの立て方は極めて巧みで、この手の映画の観客のことをこの作り手がよく理解していることがわかる。これが初監督となるピアース兄弟のお父さんは「死霊のはらわた」のSFXアーチストで、その撮影風景をみて育ったというのだから、血筋的にはゾンビ界のエリートである。

それにしても、オタクという人種はロマンチストである。この映画の告白シーンや主人公の一途な愛をみると、つくづくそう思う。オタクはロマンチックな物語が大好き。それもまた、本作が教えてくれる真実といえる。

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恋人に会いに行くゾンビ。


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