『コリン LOVE OF THE DEAD』65点(100点満点中)
COLIN 2011年3月5日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開 2008年/イギリス/カラー/97分/配給:エデン
製作・監督・脚本・撮影・編集:マーク・プライス 出演:アラスター・カートン デイジー・アイトケンス リアンヌ・ペイメン

≪激安6000円の製作費で作られたホラー≫

金がないからゾンビ映画というのは若いクリエイターにとってド定番で、世界中の貧乏監督が似たような安ホラーを量産している。一説によるとそうしたゾンビ物は年間数百本も作られているという。そんなにしょっちゅう蘇らされたら、死体としても落ち着いて死んでいられない。

『コリン LOVE OF THE DEAD』もそんなデフレホラーの一本だが、マーク・プライス監督が他の新人監督と違ったのは、誰もがやりつくされたと思っていたこのジャンルに、ささやかな新風を吹き込んだ点。お金がない分、アイデアと情熱でカバーする、そうしたごく当たり前の姿勢が好感を呼んでいる。各国の映画賞でも大人気だったと聞くし、すでに監督にはハリウッドからオファーが殺到しているとのことだ。

舞台は英国のロンドン。街はゾンビで溢れ、すでに社会秩序は崩壊している。主人公は誰かに噛まれゾンビになったばかりの青年コリン(アラステア・カートン)。朦朧とする意識の中、彼はかすかに残った人間の頃の記憶に誘われるように、どこかへ向かって歩き続ける。

ゾンビが主人公というパターンは少ないながらも過去に存在したが、主人公の謎めいた行動とせつなく感動的なラストシーンを、これだけ予算的に制限された中でつくりあげた点は評価していいだろう。何しろ本作の制作費は45英ポンド。円高の今ならたったの6千円という、お買い得価格である。テープ代節約のため、手持ちのテープに上書きしたというエピソードが涙を誘う。

むしろこの映画最大の問題は、そうした作り手の創意工夫とアイデアを、すべてぶちこわしにする邦題と宣伝資料である。とくに主人公がどこへ向かうかについては、監督が最後の最後まで伏せた本作最大のサプライズであるにもかかわらず、平気でバラす無神経。未見の観客のことも、監督の情熱もまったく考慮していない。本年度アカデミー最低ネタバレ宣伝賞は、全会一致で本作で決まりだ。

ちなみに予算6000円というが、Facebookや友人コネクションで集めたボランティアスタッフ、エキストラを利用した、要するに自主映画。エキストラにふるまったお茶代が6千円だったなどと、半分ジョーク交じりの金額というわけだ。

じっさい映像はチープだが、家庭用ビデオカメラの画角の狭さを逆手にとって、閉塞感と恐怖を演出するなど抜け目はない。室内のみならず屋外シーンでも、狭い画面の外からいつ襲われるかわからないスリルを感じさせる。特殊メイクスタッフに商業作品の経験者がいたため、きもちわるいゾンビさんたちのお食事シーンなどはしっかりと作られている。ロンドンではゲリラ撮影も敢行、世界観を広げることにも成功している。

主人公が人間からゾンビになることで、恐怖の対象が180度変わる。ゾンビになってしまえばもうゾンビは怖くないが、その代わりゾンビを狩る人間へ恐怖を感じるようになる。食料は自分ひとりで調達しなくてはならず、困っても誰も助けてはくれない。この映画のゾンビとは、まるで孤独な現代人の象徴のようだ。

通常ゾンビ映画では、一度かまれてゾンビになった瞬間からその人物は「名前」を失い、その他大勢になってしまう。だが本作ではそうならない。コリンはゾンビになってもコリンのままだ。都会の名もなき労働者を象徴するかのようなゾンビを、最後まで名前で呼ぶ。そこに本作へ監督が込めた思いがあるように私は感じる。その他大勢の中で、必死にある思いを胸に生きる「一人」の物語ということだ。

ごくシンプルなストーリーにこれだけの密度を持たせたマーク・プライス監督は、確かに才能ある監督だ。しょせんチープな自主映画だし、多くを求めるのは禁物だが、「どうせ低予算ホラー」となめてた観客にショックを与えるあのラストシーンを見れば、なるほど人々に愛されたのもわかる。

ただそれは、この記事以外の無神経ネタバレ紹介を読むとすべて台無しになるので、興味ある方はこれだけ読んでさっさと見に行ってきたほうが良いだろう。

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