『理想の彼氏』30点(100点満点中)
THE REBOUND 2009年11月27日(金)、丸の内ピカデリー他 全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/97分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督・脚本: バート・フレインドリッチ 撮影: ジョナサン・フリーマン 音楽: クリント・マンセル 出演:キャサリン・ゼタ=ジョーンズ ジャスティン・バーサ リン・ウィットフィールド

監督たちの狙いをしっかり汲み取った邦題にすればよかった

ラブコメの女王、なるフレーズが死語になって久しい。最近の米映画は熟女ラブコメとでも呼ぶべき作品が花盛りで、このジャンルで活躍する女優はもう一人や二人じゃないわけだ。

なにしろ最近の若い人は、デートで映画にいくことが減っている。ロマコメというジャンルは、いまややる側も見る側も中年ばかりという、恐ろしい状況になっているのだ。

稼ぎのいい夫と二人の子供に恵まれ、郊外で理想的な主婦業を満喫していたサンディ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)だが、あるとき夫の浮気が判明、離婚を決意する。子供たちとニューヨークに引っ越した彼女はテレビ局に就職して忙しくなり、子供の世話をアパートの1階のカフェで働く24歳のフリーター(ジャスティン・バーサ)に頼むことに。

二人も小さい子供がいるシングルマザーのアラフォー女性が、15も年下のイケメンベビーシッターとつきあうお話。いろいろと突っ込みたくなる設定だが、年齢・キャリア・収入ともに、格差の激しい恋愛であることがポイントか。

年齢が高くとも、がんばる自分には若くていい男がついてくる。フェミニストの女性たちにとって、これほど共感できるストーリーはない。とくに本作はオチも含め相当ラジカルな印象である。その意味で、冒頭にヒロインが捨て去る「郊外の専業主婦」にあこがれるような女性には向いていない。

こうした物語は、ヒロインに共感できるかどうかが勝負だが、本作はそこがやや弱い。とくに、彼女のキャラクターがどうも一貫していないように思える。思った事をうまく言えない一面と、ワカモノの前でバサバサとドレスを脱いでしまう大胆さの落差には戸惑うし、彼女が弱い自分を吹っ切る「ある男を怒鳴る」場面も、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの演技がうますぎて唐突な印象を受ける。

さらには「アラフォーvs.24歳」「一流大卒vs.フリーター」といった興味を引く設定に、ほとんど突っ込まない点も期待とは違った。

もっとも、本作のテーマはそれらではなく、ズバリ「人は失恋から立ち直れるのか」というもの。ヒロインはもちろん、ただのお人形かと思っていた相手の男も、ある出来事から立ち直ろうとしていることが後半にわかる。

冒頭に書いたとおり、昨今のロマコメ客層である、それこそアラフォー女性らにとって、このテーマは切実な問題だ。

やり直すためにはもう時間切れなのではないか。いまから「恋愛市場」で自分を売り出すのは、正直キツいんじゃないか。プライドの高い彼女たちも、さすがにうすうす感づいている。だから現状に不満があっても、我慢、妥協するほかないか……と考えている。

そんな彼女たちを励まし、やさしく背中を押してあげるのが本作の役目だ。もっとも押された女性が幸せを勝ち取るとは限らず、市場からはじき出されてしまう可能性もあるわけだが……。

結末に説得力を持たせるため──と作り手が語る終盤の奇妙な展開も、ずいぶん浮いている。狙いはわかるし、それを見る女性たちの心を想像するのもとても楽しいが、ロマコメの魅力とはそういうところにあるわけではない。よって、この点数となった。



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